―1― 「俺の恋人になってくれませんか」 知り合ってから何度目かに会ったカカシにそう云われたイルカは、その言葉の意味を把握する のに少し時間が要り、 「……はあ?」 返した言葉も少々間が抜けていた。 「あ、誰かもう恋人がいらっしゃる?」 「いや、あの、居りはしませんが……カカシさん、私は男ですよ」 「知ってます」 「なら」 「えーと、女のほうが良いってのなら、イルカ先生に会うときは、俺、変化しても」 「……結構です」 カカシは誰の目から見てもがっかりとした顔をして、それじゃあまた、と帰って行った。 今のはなんだったのだろう、とイルカは思う。 巫山戯ていたにしては妙に真剣そうだったし、真剣に言っていたとしたら巫山戯た話だ。 多分ちょっとからかってみただけなのだろうと、イルカはすぐに忘れることにした。 しかし。 「俺を恋人にして下さい」 「恋人同士になりましょうよ」 「お試し期間を採用するっていうのはどうですか」 「ねぇねぇ、お願いですからぁ」 懇願や懐柔、果ては泣き落としに近いものまで繰り出して、カカシはイルカの前に顔を見せる たびに迫ってきた。 その都度、笑ったり怒ったりして、イルカは断わる。 いつも『じゃあまた』と去って行くカカシの哀しげな表情は、とても作りもののようには見え ないのだが、だからと言って好きだと云う言葉のひとつもなく、ただ恋人に、と望まれても イルカとしては困る……好きだと云われても困るだろうけれど。 ところでカカシは本当に自分のことが好きなのだろうか、などとあらためて考えながら、 イルカは夕暮れの家路を辿っていた。 まだ日は落ちきっていないが、家庭という場所では夕食の時間で、子供たちの姿ももう 見当たらない。 ……ならば公園の茂みの木に添うようにして動いている影はなんだろう。 犬かなにかの動物だろうか。 イルカは通りすがりに目を凝らしてみた。 「……動物なんてものじゃない。ケダモノだ」 寂しいけれど大好きな日暮れ前の風景を楽しむこともせず、走って帰ってきた自室の ドアの中に転げ込むと、イルカは誰に聞かせるわけでもないのに勢い込んで云った。 「なにが『俺の恋人に』だ! 馬鹿にするな!」 イルカが公園で見たのは、重なり合う男二人の姿だった。 規則正しく、ともいえるリズムで身体を動かしていたのは上忍のアスマであり、 その下で樹の幹に縋るようにして揺らされていたのは、カカシであった。 「あ、あ、あんなこと、あんな場所でするような相手がありながら!」 その場に立ち竦んだイルカは、苦し気で、けれど恍惚としたカカシの顔を見てしまった。 身体が揺れるたびに動く髪のうち、いくらかが汗で額に張り付いているのも。 イルカは己れの目の良さを恨めしく思った。 「……ほんとに馬鹿みたいだ……」 それは、少しばかりカカシにほだされてきていた自分への言葉だった。 「……だって……」 カカシの言葉なんて冗談に決まっていると、自分自身に云ってきかせてはいたが、それでも これまで受けたことのない密で蜜な求愛に、どうして気持ちを揺り動かさずにいられよう。 「……………」 イルカは、覚える必要のない自己嫌悪に、身動きできなくなってしまった。 「イルカせんせ〜」 いつもと変わりなく生徒のように呼びかけてくるカカシの顔を、まともに見ることができな かった。怒りや、言いようの無い哀しさのほかに、昨夜見た表情が思い出されて体温が上がる。 「……もう、私のところに来るのは止めてください」 近づいてきていたカカシの足が、ぴたりと止まった。 「先生? なにか……怒ってるんですか?」 カカシは身体ごと頭を傾がせ、俯いているイルカの顔を下から覗き込むようにした。 イルカは周囲に誰もいないのを確認し、 「カカシさんには、情熱的な恋人がちゃんといらっしゃるじゃないですか。私をからかって 遊ぶのも大概にしてください」 小声で、けれどはっきりとした口調で告げた。 「……恋人? 俺にですか? いないからこそイルカ先生に」 「じゃあ! ……昨日、公園でしていたのはなんです?! 相撲なんかじゃないでしょう!」 「昨日……公園……あぁ、あれですかぁ。アスマが急に任務につくことになって、しばらく 戻れないかもしれないってんで、出かける前にやっといたほうがお互い良いだろうなんて 云いだしましてね、まったく落ち着かないったら……ええっ! アスマが俺の恋人? 勘弁してくださいよ〜」 「だってセッ……あれは普通恋人同士や夫婦がすることでしょうが!」 「あんなのただの熱の発散処理じゃないですか。好きな人に、あんな苦しいことしないでしょ」 「……はぁ?」 なにを云っているんだ、と、イルカもカカシも、互いにそんな顔をして向き合っていた。 「せんせぇ、さよーならー」 「お……おお、さよなら。気をつけて帰れよ」 バタバタと生徒が横を駆け抜けて行く。 まだ生徒や教師、学校職員もたくさん残っている学校でする話ではないと、イルカは少し冷静に なるべく考えた。 「……カカシさん、このあとのご予定は?」 「いや、べつになにも」 「よろしければ私の家へいらっしゃいませんか。伺わなければならないことがあるみたいですし」 「ほんとですか?! 先生のお宅へ?! 嬉しいなぁ」 「……それほど喜ぶようなことではないと思いますが……」 カカシは、早く行きましょう、とイルカの腕を引いて、ただはしゃいでいた。 「発泡酒しかないんですけど、飲みますか?」 帰途に求めてきた出来合いの惣菜を卓袱台に出しながら、イルカが尋ねている間も、見知らぬ 場所へ来た子供のように、カカシはきょろきょろと部屋の中を見回している。 「あ、はい……いや、こういう場合はお構いなく、っていうのが普通ですかね」 「し慣れない遠慮なんてしなくていいですよ」 イルカは苦笑いしながら、小さな冷蔵庫から缶を2本出して互いの前に置く。 「つまみには適当に手を出してくださいね。後から出せる食事は、お茶漬けくらいしかありま せんから」 「はい、いただきます。あ、その前に、乾杯〜」 蓋を開けた缶をそれぞれに持ち上げる。 「不思議だなぁ」 「なにがです?」 「俺の好きなものばかり並んでます」 「……食べ物の好みが似ているのかもしれませんね」 それを聞いて、なお嬉しそうにカカシは箸を動かして、惣菜を口に運ぶ。 手抜きしないで作ってあげればよかったかな、とイルカは思う。もしかしたら、もっと美味し そうに食べてくれたかもしれない。いや、そういうことをする前に、確かめておかなければ ならないことがあったのを、イルカは思い出した。 「ねえ、カカシさん。さっき学校で話していたことなんですけど」 「ふぁい?」 口いっぱいに頬張って、カカシは首を傾げる。 まったくナルトたちよりも幼く見える、とイルカは思う。 「恋人でもない人と、それも男の人と、どうしてあんなことするんです?」 「……だって……熱、溜まるでしょ?」 「……それはまぁわからないでもないですが……そういう相手をしてくれる女の人だって いるじゃないですか。いや、仕事でしている人じゃなくても、カカシ先生なら女の人に 人気があるし」 「女は孕むじゃないですか」 真面目な顔でそう返されて、イルカは言葉に詰まる。 「……子供はお嫌いですか」 「他人の子供なら、特別嫌なことないです。でも自分の子供なんて……気味が悪いだけです」 どうして、と聞き返すには、自分はカカシのことを何も知らなすぎると、イルカは思った。 「じゃあ……カカシさんの云う恋人って、どういうものなんですか」 カカシはもぐもぐと口を動かしながら、しばし考えこんだ。 「えーと……いつも傍にいてくれて、優しくて、時々は怒ったりもするけど、すぐにまた笑って くれて」 それは。 「誰よりも大事にしたいくて、俺のことも大事にしてくれる人……かなぁ」 それは恋人じゃなくて、親とか、家族とかそういうものなんじゃないかとイルカは思ったが、 口には出せなかった。 まるでこの人は寂しい子供だ。やわらかく抱きしめて、甘やかしてくれる人が欲しいだけなんだ。 それが解ってしまったので。 「……でも、そういう人が……あなたがアスマさんとしていることを知ったら、嫌な思いをする とは考えないですか?」 「え……」 「逆に、その人がカカシさんじゃない人と抱き合ったりしているとしたら、どう思います?」 「……ん〜……」 「少なくとも、私なら嫌ですね」 「……嫌、ですか」 「嫌です。恋人が、自分以外の人と……たとえ、好きとか、そういう感情がないとしても、 抱きあったりしているなんて、嫌です」 カカシは困った顔をして黙っている。 「……だから、もしこの先もアスマさんと、いや他の誰とでも」 イルカは決めた。 「ああいう行為を続けていくのだとしたら、二度と私に恋人になれなどとは云わないで下さい」 カカシの返答次第で、先行きを変えようと。 「……え……それって」 そしてカカシに、その意図は伝わったようだった。 「もしかして、あれをもう止めたら、俺の恋人になってもいいってことですか?」 「……そうです」 カカシの顔が、一瞬にして明るくなったのをイルカは認めた。 「ほんとに?! ほんとのほんとですか?!」 卓袱台の横を膝歩きで回り、イルカに詰め寄るようにしてカカシは言い募る。 なんとまぁ、と、イルカは苦笑いして、 「本当ですよ」 頷いてやる。 「止めます! もう誰ともしません!」 すぐさまの返答に、それこそ本当だろうかと訝りながらも、イルカは腕を伸ばしてカカシを胸に 柔らかく抱きこんだ。 「……イ、イルカ先生……」 戸惑っている様子のカカシの声が可笑しい。 誰ともしないって、自分ともなんにもしなくていいのだろうか、恋人なのに、などと思いながら、 イルカは優しくカカシの背と髪を、左右それぞれの手で撫でた。 「……へへっ」 照れたように笑いながら、カカシはおずおずとイルカの背中に腕をまわしてきた。 甘える子供を受け止めるように抱きしめて、いつの日かカカシが、恋人というのは自分が思って いたのとは違うと気がついた時、笑って手を放してやることができるのだろうかと、イルカは 思った。
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―2― 「最近やけに機嫌がいいな」 アスマに言われて、 「そぉ?」 とぼけながら、カカシは自分の顔が笑っているのを知っていた。 「……気持ち悪ぃぞ、おまえ。それはそうとウチに寄ってけよ。しばらくご無沙汰だったろ」 にやりと笑うアスマに、カカシは首を横に振った。 「行かな〜いよ」 「なんで」 「もう俺はね、おまえにも誰にも触らないし、触らせないんだよ。だから他を当たってね」 約束したんだから、と、カカシは胸の中で付け加える。 「……おまえ、決まった相手ができたんだな? 誰だよ。教えろよ」 「もったいないから教えてやらな〜い」 誰にも秘密って約束した。 約束は他にもある。 任務に出る前には必ず会いに行く。 任務から戻った時も、一番に会いに行く。 お互いの仕事に支障がないかぎり、いつでも部屋に行っていい。 きっとこれからも、会うたびに約束はどんどん増えていくに違いない。 カカシはそれが楽しみで、夜毎、明日が来るのを待ち遠しく思った。 先のことを考えるなんて、生まれて初めてだった。 風呂上りに着る浴衣が用意されるようになって、それがイルカの予備のものではなく、自分の 為に買ってきてくれたものだと知ってから、カカシは嬉しくてたまらない。 それを着るのはもう何度目かになるのだけれど、袖を通すたびに、やさしくて清潔な匂いがする。 「髪からしずくが滴ってますよ。どうしていつもちゃんと拭いてこないんです」 頭に乾いた手拭を被せられて、ワシワシと拭かれる。 イルカにそうして貰いたいから。 カカシは黙ってされるままになり、手拭の影でうっとりする。 「なにか冷たいもの、飲みますか」 「え〜と、お茶を下さい」 イルカが少し不思議そうな顔をしたのは、いつもなら発泡酒とか冷酒あたりを望むカカシが、 めずらしくお茶などを求めたからだった。 「あのですねぇ、明日から……」 「……任務にでるんですか」 察しよく最後まで云わせなかったイルカの顔に、わずかばかり顰む眉を見たカカシは、 「いや、あの、たいした仕事じゃなさそうですし、4、5日で戻れると思います」 安心させたくて適当なことを云った。 けれど上忍であり、現在は下忍の指導をしているカカシをわざわざ引き出す任務に、そう簡単な ものなどあるはずがないのは、イルカにも判る。 「……ちゃんと」 「……はい」 「ちゃんと働いて、ちゃんと帰ってこなくちゃだめですよ」 「はい!」 いいお返事だと笑って褒めて風呂に入りに行ったイルカを、渡された麦茶の器を両手で包んで、 カカシは待った。 そうなんだ、かえって来なきゃいけないんだ。 そう心の中で反芻してカカシは、こんなふうに思うのも初めてのことだと気づいた。 ずっと、任務に出るのは死にに行くことだと思っていた。 カカシに課せられる仕事といえば、敵となる相手を殺すことだと決まっている。 それは反せば、自分が殺されることと同じだ。 躯を塵にして風に飛ばす。そんな最後ばかりを夢見るように想っていた。 自分が戻るのを待っていてくれる人など、誰もいなかったのだし。 けれど現在は、帰っておいでと云ってくれる人がいるのだ。 それはなんて幸福なことだろうと、カカシは思い、幸福なんて言葉を自分に当てはめたことに 少し驚いた。 「今夜は早めに休みましょう」 とイルカが云うのは明日の自分の為だと判っているので、カカシはごねずに頷いた。 けれど、押入から布団を出そうとして止められ、とまどう。 「カカシさんさえ良ければ、こちらで一緒に」 そう云ってイルカが指差したのは、寝台だった。 「……ええっ? い、いいんですか?」 「ちょっと狭いかもしれませんけど、少しの間お別れですからね」 他人と同じ寝台で、寝るのではなく眠るなど、何年ぶりだろうかと思った。 わくわくして、少しばかりどきどきしている。 灯りを消して、隣に横になったイルカの、まだ湿った髪から匂いが香る。 「……不思議です」 「なにがですか?」 「同じ石鹸を使っているはずなのに、イルカ先生のほうが好い匂いがする」 「そんなことはないでしょう。カカシさんからも同じ香りがしてます」 カカシの髪に鼻を寄せて、くん、と嗅いで云うイルカの唇は、頬すれすれに近づいていた。 かかる息がくすぐったくて、カカシは首をすくめる。 すると、息ではなく柔らかいものが目尻に触れた。なんだろうとカカシが考える間もなく それは、次に左目に這う傷跡をなぞるように動いた。 「イ、イルカ先生?」 「こんなふうに触られるのは嫌ですか?」 「……とんでもないっ!」 今、顔に触れているのはイルカの唇だと判った途端、カカシの胸の鼓動は大きくなった。 「じゃあ……これは?」 覆いかぶさるようにしてくるイルカに、はい? と聞き返そうと少し開いたカカシの唇には、 先ほどよりも柔らかく感じるものが、始めは優しく、徐々に強く押しあてられた。 接吻されている。 したことはあっても、されたのは初めてだった。 カカシは、唇の隙間から入ってきたイルカの舌先に、自分の舌を突かれて動揺し、思わず イルカの腕を掴んでしまった。 すっ、とイルカが離れる。 「……すみません」 「あ……ち、ちがうんですっ!」 「いいんですよ」 苦笑いして、なお離れようとするイルカの腕を、カカシは強く掴みなおして止めた。 「ほんとにほんとです! 嫌だとかいうんじゃないんです!」 え? というようにイルカの首が傾げられる。 「絶対、嫌なんかじゃなくて、それどころか嬉しくて、けど……」 「けど?」 「……ちょっとびっくりしたというか……慣れてないというか……」 イルカは驚いた顔をした。 「えーと、したことなかった、とか言いませんよね? 接吻」 「したことくらいありますよ。けど……」 「……アスマさんは、してくれなかったんですか?」 「するわけないじゃないですかっ! 気色悪い!」 ほんとうに気持ち悪そうな顔をするカカシを、イルカはくすくす笑いながら抱き寄せた。 「私は気持ち悪くなかったですか?」 「……なかったです」 「なら、もう一度してもいいですか?」 カカシは、2,3度口をぱくぱく開け閉めした後、 「……はい」 小さく応え、近づいてくるイルカの顔を見ていられず、目を閉じた。 紅を引いていない唇は、ただ温かいのだとカカシは知った。 驚いたのは本当で、けれどもうひとつ理由があった。 自分がねだってねだって、やっと恋人にしてもらったのだから、イルカのほうから接吻など してくるとは考えたこともなかったのだ。 乾いた唇の中は、潤っているのだと改めて思った。 遊びの相手に接吻できるほど、イルカはさばけていないはずなので、多分嫌われていることは なく、真面目に自分のことを大事には思ってくれているのだと信じたかった。 上顎を舌でなぞられたとき、躯がびくりと跳ねた。 それに気づいてか、イルカは宥めるようにカカシの背中を優しく撫でる。 ただ接吻しているだけなのに、どうしてこんなに躯はわななくのだろうと、カカシは思った。 アスマに背をとられて躯の奥を突かれ、苦しさを我慢した末にやっと起きだすような感覚が、 苦しみもなく簡単に湧き出てくるのはなぜだろう。 そんなことを考えている間にも、躯はどんどんと熱くなった。 胸の鼓動の音がイルカにも聞こえてしまうのではないか、そう思った瞬間、浴衣の袷から手が 差し込まれ、カカシの躯は再び跳ねるように反った。 「触られるのは嫌ですか?」 少し離された唇から、イルカが静かに囁いた。 カカシは首を横に振る。 「カカシさんが嫌なことはしたくないんですよ」 目を開けると、優しく自分を見るイルカの目がすぐそこにあった。 この眼差しを知っている、とカカシは思った。 いつも、身体に飛びついてきたり、強がって横を向いたり、無心にラーメンを食べたりしている ナルトを見つめる目だった。 そうか、と今更ながらにカカシは思う。 こんなふうに見つめられたくて、恋人になって欲しいと思ったんだ。 「……イルカ先生の手は、あったかくて気持ちいいです」 イルカはにっこりと笑った。 顔や躯のあちこちに接吻を撒きながら、イルカの手はまるでカカシの躯のすべてをなぞり取る ように滑る。特に刺激的なことはされていないと思うのに、分散していた熱が我先にと一箇所に 集まりつつあった。鼓動の早さに負けじと、息も上がる。 じっとしていられず、けれどどうすることもできずに、カカシはただイルカの背に腕をまわし、 纏われている浴衣を指先で手繰り寄せていた。 そしてこれまで決して触れられなかった、熱が溜まって熱くなっている場所に、イルカの指が 這った。 その瞬間、初めて味わわされていた焦れた感覚を持て余しかけていたカカシは、短い声と一緒に 強く熱をしぶかせた。 「……ごめんなさい」 投げ出したままの躯をイルカに拭かれながら、カカシは子供のように幼い口調で詫びた。 「なんで謝ったりするんです?」 イルカは最後の仕上げとばかりに、カカシの顔を覗き込んで、額や頬を拭きながら云った。 「……だって……」 「私は嬉しかったんですけどねぇ」 「……え」 「だって、接吻して、抱きしめて、手で触れて、それだけでカカシさんは悦んでくれたんです から。きっとほんとに、私のことを好きでいてくれるんだなぁって思って、嬉しかったです」 成人男性としては少しばかり恥ずかしい仕業だと思っていたカカシだが、イルカが、決して 自分を慰めようとして云っているわけではないことは、柔らかく笑ってくれている顔を見れば 判った。 そのイルカの笑顔に釣られるように、カカシは少し照れながら笑った。 「さて、今度は本当に寝ましょうね。寝坊して遅刻したら大変だ」 新たに着せてもらった寝巻きは、やはりやさしくて清潔な匂いがした。 イルカとぴったりくっついて目を閉じたカカシが、 「……俺もイルカ先生に触りたいです」 おずおずと云う。 「じゃあ、やっぱり任務から元気で帰ってこなくちゃね」 イルカはそう云って、胸に抱き込むようにカカシを引き寄せた。 「はいっ!」 「……いいお返事です」 くすくすとイルカが笑う。 その声を聴くために、その腕に抱かれるために、その唇に触れてもらうために、行ってきます、と 自分は云って出かけなければならないのだと、カカシは思った。 行って―――来ます、と。 |